「放射能と向き合おう。子どもにとって、内部被爆の影響って?」

【まとめ】

4月から新基準値が導入されましたがいくつかの問題点をかかえたままです。市民科学研究室は「大地を守る会」と提携して、「よりきめ細かく測るべき品目・場所」と「もう測らないでもよい品目・場所」をいかにして区分けできるか、さまざまな汚染のデータや実験結果をもとに、研究をすすめています。


地方自治体は頑張って検査をしていますが、圃場の大きさにサンプル数が見合っていなかったり、地区ごとにサンプルのとり方や検出限界値にばらつきがあったりで、汚染データを単純一律に地区ごとに比較できるとは限りません。そうしたことも考慮してデータを読み取っていく必要があります。


ただ、極端な「ゼロベクレル指向」に陥る消費者が多くなればなるほど、 汚染地域の農業は立ち行かなくなります。暫定基準値以下であったものについても、「ではキロあたり何ベクレルくらいは入っていそうか」を確かめつつ、「(ゼロでなければならない、ではなく)できるだけ低く抑えていくにはどうするか」 という姿勢で、ある程度の妥協点を探ることも必要だと思います。


つまり生産者も消費者も、いかにデータを読むか、です。 データから汚染のパターンを読み取ることで、「今後、この品目については (どの程度)出る/出ない」のおおまかな判別ができるようになれば、生産者・消費者の互いに納得しながら、双方の被害を軽減できるはずです。


例えばレンコン。圃場ごとの泥や土、水をすべて計り、汚染がどこから来ているかを探る。そして昨年の産品の検査データとつきあわせて、今年はセシウムがどの程度植物体 の方に移行するかを予測する。これが低減化対策を講じる出発点になります。現に、お米や果樹をはじめとして、こうした努力が生産現場ではなされています。


しかし水産物(淡水魚や海産物)については、原発から汚染水が漏れ続けていることや、山林などにたまっていたセシウムが表土流出などによって、川そして海の主として

泥の方に徐々に移行し集積していくということのため、相当長期間汚染が引き続くと覚悟をしなければなりません。魚も生息環境や回遊のあるなし、餌のとり方などで、種類によって汚染の度合いや推移も異なっていますから、汚染がそれほど高くない魚種もあります。一方、海草(ノリ、ヒジキ、ワカメ、昆布など)からは今年始めくらいから放射性物質はほとんど検出されなくなっています。


給食については、新基準値では不十分な点があり、自主基準が必要だと思われます。 (自校の測定データのみならず他校や自治体などの)様々なデータをもとに、「どの食材をうまく優先的に使っていけば汚染を減らせるか」を考えながらメニューを 作るのが望ましいでしょう。給食で最も問われるのは、トレーサビリティと検査ですが、そうした情報を多くの学校で共有できるようにしていければよいのではないかと思います。


チェルノブイリ原発事故による健康影響を調べたさまざまなデータをみる限り、 低線量といえども、長期間引き続くような被曝は侮れません。ただ、福島とチェルノブイリでは、食品の汚染の度合い、それに伴う食事による内部被曝の度合いが大きく異なっていることがわかってきています。まがりなりにも汚染地全域で食品を検査していること、飼料や食品全体で海外産の割合が高いことなども関係して、1日の平均的な食事において数十ベクレル以上のセシウムを摂取することになるケースはかなりまれ、というのが日本の現実です。


一つの目安として、一日のセシウムの摂取量を大人で10ベクレル程度に抑える、というのが妥当だと考えています。乳幼児ではそもそも食べる量が大人の半分程度ですので、同じものを食べていても摂取量もそれに応じて少なくなりますが、子どもで半分、幼児はそれ以下くらいを目安に考えるとよいのではないでしょうか。


幸い、食材選びに少し気をつかえば、今述べた「10ベクレル以下」は達成できる状況に あると思います。厳し目の検出限界(数ベクレル/kg以下)で測定された品目で、 「不検出」となったものを優先的に選びさえすれば、おそらく1日10ベクレルは超えない。子どもには出来るだけ「不検出」のものを与えるようにしましょう


そのためには、自治体、自主流通グループ、各学校区の給食など、測ったデータを公開し、それを共有して、“上手な食材選び”が皆でできるようにしていくことが大事です。


一方、生産者は風評被害を乗り越えるために、作物だけでなく、圃場の土と水を計測し、低減化対策を見定めて、実行しましょう。そしてそのプロセスを公開して、消費者の理解を求めていきましょう。そうすれば、「福島産はダメだ」という単純化した誤ったイメージを払拭していくことができると思います。

 


 

 

【質疑応答】

  質問1) 去年の事故以来、降下した放射性物質。落ちたものはまた循環するのでは?
(女性)


応答1) 一度土に付着したセシウムは容易には離れない。山林では、セシウムの付着した枝や葉が落ち、表土が流れて川に入る、などセシウムのめぐり方が違う。循環する部分とそうでないところがある。

 

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質問2) 家では、親戚が栽培したものを食べている。家の家庭菜園のものをどうすればいいのか?(男性)


応答2) 空間線量を測るガイガーカウンターを作物に当てて数値が出ても、全くあてに
ならない。空間線量を決めている外部からのガンマ線と作物に取り込まれたセシウムから出るガンマ線を区別しなければならない。食品測定用の検査器を備えた市民放射能測定所や専門検査機関に持っていくしかない。

 

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質問3) 外食がわからない。外食産業では、暫定基準値改訂以前の基準値をベースにした検査の食材が在庫されていて、それが提供されているのではないか?(女性)


応答3) 加工食品が一番下流にある。外食産業でデータをちゃんと取っているところはみたことがない。最初から、測りようがないため、自己防衛しかない。高い値が出
ている海産物の加工食品は危ないかもしれない。気になるものは市民放射能測定所に持っていって調べてみるほうがよい。

 

〈司会補足〉 飲食店ネットワークができていて、まだ少ないが情報を開示しているところもある。食材を測って、測定器を設置しているレストランがある。そういうところを応援するということもできる。

 

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質問4) 子供の尿検査をやってみた。0.3ベクレル/kgや、0.13ベクレル/kgなどだった。内部被曝で尿検査をやる効果はどうなのか?4歳から、8歳くらいのお子さん5日間やってみた。外食が多い子、少ない子で、少ない子が一番高くでた。なかなかデータがリンクできない。(男性)


応答4) 尿検査は、きちんと定期的にやれば、食べたものと内部被曝とのある程度の相関や傾向は見えるはず。ところが、子供に2リットルを何日間かけて尿をとるので、正確に食事の内容と尿とを対応させてデータをとることがかなり難しい。摂取物、食べ方、タイミング、いつからいつまでの尿なのかといった情報を取りながら、定期的に何回か測ることが望ましい。

 

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質問5) 新宿区も給食を継続的に測定しているのだが、ミックスしている。そのやり方でいいのか?(女性)


応答5) 学校の多くが似たような献立を採用している。地区ごとにそれぞれ計測して
データを公開しているが、本来は産地が同じで同じ時期の同じ食材を使っているなら、それを測ったデータはシェアすべき。セシウムが検出されたものについては、相互に比較して傾向をつかむことも重要。測りきれない食材については、厚生省や市民放射能測定所や、自主流通グループ(生協など)のデータから判断していく。

 

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質問6) 西日本、外国産での食材でやりくりしている。たとえば、群馬産や、茨城産の
葉ものなど食べてもいいのか?(女性)


応答6) 現在、葉物野菜は、新たな降下がない限りほぼ大丈夫。ただし、近隣に山が
あって、山が汚染さているとしたら、その汚染が直接に飛散して付着したり、水を経由して取り込まれたり、といった影響はあり得る。今の福島原発から出る放射性物質は、事故直後の最も多い時期の放出量に比べて約8000万分の1程度になっている。

 

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質問7) 麦でも出てしまったが、パンなど、どうしたらいいのか。(女性)


応答7) 国産の麦だけを使用している食品の割合は少ない。外国産の小麦が主流であるため、食品自体の汚染が高くなるものは少ないだろう。国産小麦に限定して作っている食品は要チェックとなる。

 

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質問8) 市販されている地下水について、セシウム付着したものは移動しないと聞くが、ずっと雨がふっている状態で、地下水にしみこんでいる場合、地下水にまざっている場合はあるのか?また、子供たちの川場村の問題。土に触る、怪我をして入る、など、土に付着するのであれば、それが心配。(女性)


応答8) 地下水でセシウムが検出されたケースはない。唯一心配なのは、福島原発のまわり。原子炉建屋の地下に地下水が流れ込んで放射性物質による汚染水が増えるのを防ごうと、井戸を掘って地下水を汲み出して、海に流すことにしている。


阿武隈川で昨年8月に川の水1リットルあたり4ベクレルのセシウムが検出されたが、大半は川底や川べりの泥にたまっていく。


そしてそれが徐々に海底泥にまで広がっていく。線量の高い場所に出かけて遊ぶとするなら、強く風が吹く、激しい運動で土埃が舞い上がるなどそれば吸引による内部被曝の可能性が出てくる。ただ、よほど激しく長期間にわたって、ということでない限り、吸引による内部被曝が0.1ミリシーベルトを超えるようなことはまず起こらない。

 

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質問9) プルトニウムとストロンチウムは割合が少ないという話だが、最初は飛ばないと言っていたのが飛んでいた。世田谷でも測っていない。安全だと思うなら、データを公開するべきだし、微量でも危ない物質であるのに、なぜ測らないのか?(男性)


応答9) 測らない理由は非常に手間と時間がかかるから。ストロンチウムは計測に3週間から1ヶ月かかる。測る体制も十分ではない。文部科学省が行った福島県内での測定データをみると、地上に降り注いだストロンチウムの総量は、セシウムの放出量の数千分の1程度で、チェルノブイリと比べると約20分の1~100分の1くらい。プルトニウムの放出量は、核実験の頃に降り注いだ量と比べてもそれより多いとは言えない。京大の今中先生たちが測った飯舘村のデータでも、セシウム137に比べ、ストロンチウム90は2000~3000分の1、プルトニウムは1000万~1億分の1汚染レベルであることがわかっている。ストロンチウムの多くは海に流れているので、今後海産物への移行が気になるところだ。

 

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質問10) 昨年3月15日にストロンチウムが微量だが出ている。かつての核実験のデー
タよりも多い。(男性)世田谷でも土壌検査するべき。文部科学省は以前からあったというが、それならば(核実験以外でも)事故前からも出続けていたのではないか?とも考えられる。


応答10) 世田谷区内の都の関連施設で検出されたが、都は「数値が低く、健康に影響を及ぼす可能性は低い」として公表していなかったデータで、3月15日に採取した大気中1立方メートルの浮遊物質の中から、ストロンチウム90が0.01111ベクレル検出された、というものであろう。やはり自治体が率先して、域内の少なくとも数カ所くらいはストロンチウムの土壌汚染を調べる方がよいだろう。

 

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質問11) 自宅の庭先の土でセシウムが125ベクレル/kgあった。

 
応答11) もし身体中に125ベクレル/kgあれば、体重30kgの子だったら、全身で3750ベクレルとなり、決して安心できない。しかし、その土から出るガンマ線による外部被曝であれば、その土が広範囲に広がっていたいとしても、たいした線量にならない。今回の原発事故のせいで、関東のほぼ全域で土壌の汚染が1キロあたり100~数百ベクレル程度になってしまっている。核実験の頃はそれがもう一桁小さかった。
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